活動趣旨

日本の新生児医療は世界でも最高水準にありますが、救命された早産児からの認知学習障害や情緒行動問題をもつ子どもの割合が非常に高いことが指摘されています。今日の新生児医療では,早産児の救命とともに,子どもと家族のQOLを改善することが大きな課題となっています。  早産児の予後は,脳の発達に影響されます。早産児では,脳の重要な発達期に,母体内とは異なった治療環境や医学的処置,ケアの影響を受けるため,このことが脳の形態構造的な変化(傷害)をもたらすと考えられます。したがって,早産児の治療環境やケアの「質」の改善することが,早産児の脳発達の正常化を図り,将来の認知・情緒・行動の心の発達を改善することにつながると考えられます。ケアの質を改善するために,ケアにかかわる専門職者の教育が不可欠です。

米国およびヨーロッパの先進国では,早産児のケアに,早産児の脳の発達とQOLの改善を目的としたディベロップメンタルケア(Developmental Care;以下DCとする)の取り組みがなされています。DCの創始者であるDr. Heidelise Als (Harvard University)らは,NIDCAP(Newborn Individualized Developmental Care and Assessment Program)という早産児のケア・プログラムを開発し,その効果に関するエビデンスも蓄積しています。近い将来,このNIDCAPが早産児のケアを保障するグローバルスタンダードとなると考えられます。


NIDCAPは,胎児新生児の神経行動発達理論に基づいた 発達支援のためのケア・プログラムで、 以下の4つの柱からなる包括的なDCプログラムです。

  • 1)一人ひとりの赤ちゃんの発育や発達状況を観察評価し,個別的なケアを行うこと
  • 2)赤ちゃんとの行動をコミュニケーションの手段としてとらえ,それに応じてケアの提供を考慮すること
  • 3)環境調整やポジショニング,心地よい感覚刺激(カンガルーケアなど)などの具体的な発達支援のためのケアの方法を検討し,提供すること
  • 4)出生後から退院までを通して,家族支援を行い,赤ちゃんと家族の関係性を育てること

 近年の研究報告では,このNIDCAPが,早産児の合併症の予防や成長と発達(脳画像所見,心理検査など),そして親子の関係性の発達などに良い効果を及ぼすことが報告されています。さらに, Alsらは,このNIDCAPを関係専門職者の教育プログラムへと発展させ,全米,ヨーロッパなど各国にDCセンターを設立(NIDCAP Federation International;NFI)して,教育活動を展開しています。この教育プログラムには,多くの専門職者が受講しています。   我が国でも,NIDCAP教育プログラムの受講を希望する専門職者は非常に多く,2007年に開催された第43回日本周産期・新生児医学会学術集会(学会長:仁志田博司)ではAlsが招聘講演し,多くの関心を呼ぶとともに,DCが今後わが国の新生児医療の取り組むべき課題であり,この活動を推進していくことの必要性が認識されました。  本研究会は,このような現状認識のもと課題解決を目的に,NFIの会長である Als並びにSenior NIDCAP Master Trainerでもある gretchen Lawhon、らの協力を得て,我が国でDCの教育・研究活動を推進し,またNIDCAPインストラクターの養成を目指して,専門職者へのDC教育・研究を発展させ,新生児医療の改善と子どもたちの暖かなこころと未来を築くことを目標として活動いたします。


DC研究会の活動内容

  • ①DC教育セミナーの開催(年2回)
  • ②NIDCAPトレーニングの開催
  • ③DC教育プログラムの開発と実施
  • ④国内でのDCモデル施設の設立と、それを拠点とした教育活動
  • ⑤DCテキスト、書籍等の出版
  • ⑥DCおよび子どもの発達・支援に関する研究活動
  • ⑦その他、DCに関する教育研究
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